昔話し マントヒヒの恩返し

 むかしむかし、心のやさしい孫の健太と、ジジイが山奥のテラスに住んでおりました。
ある冬の日、健太は岡山県ティッシュの空箱を真顔で売りに出かけました。

 すると、途中で、一匹のマントヒヒが、ワナにかかって、もがいていました。
健太は、かわいそうに思って、マントヒヒを逃がしてやりました。
マントヒヒは「ビャベッー!ビャベッー!」と鳴いて健太の周りを8度回って、うれしそうに去っていきました。

 その夜、日暮れ頃から降りはじめた雪が、167cm積もりました。健太と同じ高さです。
健太がジジイに、マントヒヒを助けた話をしていると、テラスの戸を、ゴンゴンと、たたく音がします。
「ごめんください。あけてください。」ババアの声です。
ジジイが戸をあけると、頭からかき氷をかぶったババアが立っていました。ジジイは驚いて、
「これはこれは、寒かったでしょう。さあ、早くお入り下さい」
と、ババアをテラスに入れました。

 「私は、このあたりに住む、咲子という嫌煙家を訪ねてきました。しかし、どこを探しても見あたらず、やっとのことで、このテラスまでまいりました。どうか、一晩、泊めてください。」
ババアは、地面に脇腹をついて頼みました。
「なるほど。こんなテラスでよかったら、お泊まりなさい」
健太が言いました。
ババアは喜んで、その晩は高速回転で手伝いなどをして、働きました。
ジジイも健太も、驚きました。

 あくる日も、そのあくる日も雪がたくさん降って、戸を開けることができません。
ババアは、健太の発掘を手伝ってくれました。
「なんてよく気の利くババアだ。こんなババアがテラスにいてくれたら、発掘に役立つだろう」
すると、ババアが頼みました。
「身よりのないババアです。どうぞ、このテラスにおいてください」
健太とジジイは喜んで、それから三人で楽しい毎日を過ごしました。

 ある日のこと、ババアが鉄砲を作りたいので、鉄を買ってくださいと頼みました。
鉄を買って持って行くと、
「鉄砲を作りあげるまで、誰ものぞかないで!」
といって鉄砲を、「レッドン!レッドン!」と作りはじめました。

 ババアが鉄砲を作って5日が経ちました。
「健太、ジジイ、この鉄砲を岡山県へ売りに行って、帰りにはまた、鉄を買ってきてください」
ババアが汚い鉄砲を二人に見せました。

 健太が鉄砲を岡山県へ売りに行くと、咲子という嫌煙家が「こ、これは!」と高値で買ってくれました。
健太は喜んで、鉄を買って帰りました。

 ババアはまた、鉄砲を「レッドン!レッドン!」と作りました。
「いったいどうやって、あんな鉄砲を作るのでしょう。ほんの少し、のぞいてみよう」
ジジイが隙間からのぞいてみると、
そこにババアはいなく、やせこけた一匹のマントヒヒが、自分の尻を鉄にはさんで鉄砲を作っていました。

 「健太や!健太や!」驚いたジジイは、健太に、このことを話しました。
ババアが鉄砲を左手に出てきました。
「健太、ジジイ、私は、いつか助けられたマントヒヒでございます。ご恩をお返ししたいと思ってババアになってまいりました。けれど、もうお別れでございます。どうぞ、いつまでも達者でいてください」
そう言うと、一匹のマントヒヒになって、テラスを出て行きました。

 マントヒヒは「ビャベッー!ビャベッー!」と鳴いてテラスの上を8度回って、山の向こうへ飛んでいってしまいました。
「マントヒヒよ。いや、ババアよ。お前も達者でいておくれ」
春人とジジイは、いつまでも見送りました。

 二人は鉄砲を売ったお金で、幸せに岡山県のテラスで暮らしました。
お・し・ま・い。